投資先でもある全国保証(7164)の銘柄分析です。昨年も分析記事を書きましたが、23.3期の有価証券報告書が出ましたので、情報は最新のものにアップデートしつつ加筆・修正しました。
過去の銘柄分析は以下にまとめています。ボチボチ更新中です。
全国保証について
ざっくりとした事業内容、投資指標等は以下の通りです。
- 独立系の住宅ローン(フラット35)保証会社(その他金融業)
- 保証債務残高15.9兆円、保有契約件数96.9万件で国内トップクラス(独立系ではトップ)
- 株価:5,097円(23.06.23終値)
- 時価総額:3,510億円
- PER:11.9倍(過去平均PER:11.9倍)
- 配当利回り:3.34%(10期連続増配)
事業概要は以下の様になります。
全国保証_22.03期決算説明資料より
- 全国保証が住宅ローン借入人の連帯保証人になる
- 借入人から保証料(手数料)を受け取る
- 借入人が返済不能になった場合は同社が金融機関に対して返済を行う(代位弁済)
借入人にとっては連帯保証人を探す負担の軽減。金融機関にとってみれば(個人の連帯保証人と比べて)信用力懸念、回収不能リスクの回避。これが当社の提供価値になります。収益は定期的に計上される保証料で、保証債務残高の積み上げに応じて増加していく典型的なストックビジネスです。
住宅ローン市場は大きな成長は見込めませんが、210兆円もの巨大市場です(ただし昨年の記事では180兆円と記載していたので30兆円増!)。同社の保証債務残高は15.9兆円なので、シェアアップによる業績拡大の可能性は十分に残っています。同業他社のほとんどは金融機関の系列会社で、独立系の当社にとってはガチンコの競合に当たらず。さらに最近は、金融機関のリスク分散の観点(ローンを貸出する金融機関と保証会社が同じ系列であればリスク分散にならない!)から当社への引き合いが増えている様です。ここ最近でM&Aによる金融機関系列の保証会社の子会社化、農協など金融機関との連携などニュースリリースが活発になってきた印象がありますね。
事業上のリスクは、借入人が返済不能になることによる代位弁済の増加。ですが、15.9兆円の保証債務残高に対して発生する代位弁済の金額は107億円/年(23.3期実績、率にして0.07%)。直近は0.1%以下と低水準で推移しています。また、仮に代位弁済したとしても担保物件の売却等により70%以上を回収。現状では問題ないレベルと見ていますが、この数値の推移は常にチェックしておきたい所。
業績
まずは業績から見ていきます。以下は損益計算書(PL)の推移です。
マネックス証券より
続いて営業利益率とROEの推移です。
マネックス証券より
業績の特徴は以下の通り。
- 売上、営業利益ともに綺麗な右肩上がり。過去5年の年平均成長率(CAGR)は、売上4.9%、営業利益5.0%、最終利益5.3%。
- 営業利益率は驚異の79%!「信用」が武器のため、PL上のコストは非常に低く抑えられている。
- 金融業のため売上に対する貸借対照表(BS)の規模が大きく、総資産回転率0.11%と低いもののROEは14.6%とまずまずの高水準。
CAGRは昨年から少し鈍化したものの安定成長と言えそうです。72の法則(※)に当てはめれば、これまでの成長が今後も続くと仮定して13.6年で最終利益は2倍になる計算。緩やかながら低下傾向にあるROEは、今中計期間中に底打ちさせる計画(後述)。
複利運用において元本を倍にする期間(年数)を簡単に計算できる法則
72 ÷ 年間運用利回り(CAGR) =2倍になる年数
財務
続いて貸借対照表(BS)、直近5年間の推移です。以下、構成比で表示。
マネックス証券より
負債・純資産(資金の調達サイド)から見ていきます。
- 23.3期末時点の自己資本比率は46.4%で長期的に少しずつ増加。純資産の大半は利益剰余金で同社が順調に利益を積み上げてきたことが分かる。保証会社としての信用維持・向上のため、1年間に発生する損失見込み額の15倍(平均的な住宅ローン返済期間が15年のため)を必要資本として確保する方針。
- 48%を占める固定負債の大半を占めるのは長期前受収益。これは顧客から保証料として受け取った金額のうち、1年を超えて売上計上されるもの。
- 流動負債の半分以上は前受収益で、これは保証料として受け取った金額のうち1年以内に売上計上されるもの。また額としては小さいが、代位弁済が発生した場合の損失の見積もり額である債務保証損失引当金。これは保証債務残高の増加に伴って増加する性質がある。
資産(資金の運用サイド)です。
- 現金・預金は1,650億円(37.2%)。1年間に発生する代位弁済金額が100億円ぐらいなので盤石のキャッシュ。同社の武器である「信用」を維持するため、BS上では(それだけでは価値を生まない)多額のキャッシュが計上されている。
- 年々増加傾向にあるのが投資その他の資産で、19.3期の41.0%⇒23.3期58.2%と大きく増加している。その大半は投資有価証券で、国債・社債・住宅ローン担保証券など2,246億円。これにより、PL上では営業外利益(利息や配当など)が増加する。
特徴としては、(保証サービスを提供すると言う債務は発生するが)無利子で調達して返済の必要も無い資金(前受収益および長期前受収益)が大量にあること。これに事業活動によって得た資金(利益剰余金)が加わって盤石の財務と言えます。運用サイドでは、保証会社として必要なキャッシュを確保しつつ、残りはM&Aによる子会社獲得(規模拡大)や投資有価証券で運用している構図。まあ固いですね。
キャッシュ・フロー
キャッシュ・フローの推移です。
マネックス証券より
営業CFは安定的にプラスで推移。投資CFに関しては、事業継続のために多額の設備投資などは必要無く、大半が投資有価証券の取得 ―即ち潤沢なキャッシュを使ってのM&A(買収先の顧客と保証債務残高を買っている様なもの)、国債・社債・住宅ローン担保証券での運用など― によるものです。安定感ハンパない。
株主還元
株主還元です。
全国保証_新中期経営計画資料より
上場来10期連続の増配。FY25までの新中計では配当性向50%まで徐々に引き上げながら増配を継続する計画。仮に今の株価5,097円で投資して計画通り増配された場合、3年後のYoC(簿価利回り)は4.8%です。
今後について
上述の通り、保証会社としての信用維持・向上のため1年間に発生する損失見込み額の15倍(平均的な住宅ローン返済期間が15年のため)を必要資本として確保する方針。以下は新中計の資料からの引用ですが、必要資本の増加ペースを自己資本の増加ペースが上回っており、FY2020当たりで自己資本が必要資本を超えました。これまで自己資本を蓄積するフェーズにあった訳ですが、必要資本が利益の源泉たる保証債務残高に応じて増加する性質であることを考えると、ジワジワとROEが低下してきたのも理解できます。ここ密かに懸念点でしたが、要するに「利益成長」<「自己資本の成長」になっていたと言うことですよね、戦略的に。
そして、資本蓄積フェーズから資本活用フェーズへのシフトチェンジ。成長投資の加速(利益成長)と株主還元の強化(利益規模に対する自己資本のコントロール)を推進することでROEは底打ちさせると言うのも納得感があります。
全国保証_新中期経営計画資料より
成長投資の方向性としては、基幹事業における(M&Aも活用した)保証債務残高の積み上げ、周辺事業への進出による住宅ローンプラットフォームの構築となります。周辺事業に関しては、まだ出てきている情報が少ない気がしますので、引き続きキャッチアップしていきたいと思います。
全国保証_新中期経営計画資料より
まとめ
以下、全国保証の個人的な印象です(★が多い方が好評価)
成長性:★★★☆☆
収益性:★★★★☆
安定性:★★★★★
急激な成長は見込めませんが、インカムゲイン狙いで長期保有するにはもってこいの銘柄ではないでしょうか。過去平均PER11.9倍に対して予想PER11.9倍。今後の増配を考えると今の水準でも十分な気がしますが、もう少し安くなった時に仕込めたらベターですかね。まあ派手にキャピタルゲインを取りにいく様な銘柄では無いと思うので、欲張りすぎずコツコツが奏功するかもしれません。
以上、ご参考になりましたら幸いです。
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